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ジユウジカン

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07.21.16:21

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  • 07/21/16:21

12.03.01:31

サジと

河川敷。
芝生が敷き詰められていて、
ゆるやかな傾斜を上ると、
そこは、自転車やら歩行者が行き交える細い道が、川に平行するかたちで設けられている。

天気はおだやかで、
風はゆるやかで寒くなく、
青空が澄んでいて雲もなく、
絶好の日光浴日和。

そんな場所。

暗殺の道具の一切を、新しい“身の拠り所”に置き去りにして、
今、ここでこうして肩を並べて腰を下ろしている。


監獄島を脱獄して、
土門と共に鳳来国で過ごした壮絶な日々が、まるで夢幻だったかのような、穏やかな刻。

どこともつかぬ、
いつの時代とも知れぬ、
誰も、自分の何をも知らぬ国。

虫の息だった彼は、この国の民に救われた。
見たことも聞いたこともない不思議な方法で。

飛頭蛮から受けた、致命傷の腹の傷痕だけは、
どんな方法をもってしても消えることはない。
彼自身も、この傷痕は飛頭蛮が生きた証として、
無理に消し去るつもりもない。

殺しを生業とする一族の血が、
そうやって生きてきたことを自分に忘れさせないため。
一族を根絶やしにしたけれど、まだ己の中に流れる殺戮の血と、自分の存在確認のため。



穏やかな時間。

彼は静かに微笑む。
なんの感情もない、彼の、これが無表情。

もう何年になるだろう。
もう何十年となるのだろうか。

温度のある言葉が、
意味のあるものとして、
彼の心を反応させるようになってきている。

少しだけ。ほんの少しずつ。


走ることを覚えて、
風をきる感覚が大好きになる年頃の無邪気な幼子が、
自分とおなじほどに育った若いすすきを握りしめ、
彼の方へ駆け降りてくる。

その顔にも心拍数も、怖じ気をにじませるものは微塵もなく、
むしろ、だんだんと満面が笑みにまみれていく。


幼子が、どうやら彼に呼びかけた。
ゆっくりと首をめぐらせ、
合わせて体も捻って、幼子に向き直る。

再び何かを呼び掛けた幼子に、
彼は作り物ではない優しい表情と、飾らず何の含みもない言葉を交わすと、幼子からすすきをうけとった。
幼子の顔が、あっという間に笑みでいっぱいになる。

最後にひとこと告げてから、
幼子は、もときた道を駆けていく。
途中で何度か彼を振り返り、ちいさな掌をかざして、
その体ごと大きく振っては走り、やがて見えなくなっていった。

彼もまたいつものように、
何度振り返るのか把握しきっているかのように、
駆け出す直後から、すっと立ち上がって幼子を見送った。
影も形も気配すらも、すっかり感じられなくなるまで。
そんな彼もまた、いとおしさと喜びが、素直に表情に表れている。
ほんのわずか、どこか憂いを帯びた感があるのは、
自分の幼少期を思うからなのか。
あまりよく覚えていない。
否、思い出せないだけか、思い出さないだけか。
さもなくば、必要のない記憶を保管しておけるほど、
穏和な気性を持ち合わせていなかったか。



鳳来と果拿への復讐は、まだ終わっていない。
このまま、このなまぬるい時間をゆるゆると過ごして、
時と共に朽ち果てる気もない。
ましてや、鳳来と果拿が
勝手に滅んでいくのを見ている気など毛頭ない。
必ず自らが何かしらの手を下して破滅させる。


水辺の渡り鳥が、弾かれたように飛び立ち、
まだ明るい空に、一筋の光が流れた。

いつか、鳳来で見た流星に似ていた。

穏やかな刻も、もうそう永くはないだろう。
自分の穏やかな刻は。
少し、ゆっくりしすぎたかもしれない。

あと何回、あの幼子の後ろ姿を見送れるだろう。
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